仕事を辞められないほど美味いお茶、ヤメチャ
理系院卒、それはまあピカピカの新卒で就職した会社であるが、まだ1年も経たない今日もあまりに辞めたい。毎日やめたい辞めたいと友人にこぼし、悩み相談の体なのに、そろそろ「なんで早く辞めないの?」とキツめのアドバイスを頂戴しだすこの頃である。
鬱気味なのか、就職してから口が乾くようになった。営業のくせに一言喋るたびに舌が絡まる。
「アッ!ども!お世話になておりみす。ア、えーと、商品いかカッですか!?」乾燥とかの問題でもないかも。
夏頃からは対策として会社にコップを持って行って、水道水を飲んでいた。中京工業地帯で頭を張っている四日市の水道水は、控えめに言って泥である。鼻に抜ける独特の風味は、塩素を液体にしているとしか思えない。
余談であるが、デスクの引き出しに無印のチャイの粉を常備し、水に味をつけて飲んでいた時期もあった。数ヶ月後にはたと思い出し、再び溶かしてみると何か細かいものが浮いている。目を凝らすと、あ、脚がつ…いて…いや、もう思い出さないでおこう。(涙)皆様においては、私を反面教師として粉末飲料は開封したら早く飲まれることをここに誓っていただきたいです。
なにはともあれそのまま営業成績は伸びるどころか下がりながら冬を迎え、経費に厳しすぎて暖房さえ制限する極寒の職場でカーディガンやらダウンやらを着込んで、本業の営業をサボって事務作業をしていたが、ふと思い出した。お茶出しを女に任せる職場のお昭和ハゲジジイどもだけが飲む暖かいドリンクのことを。
無能新入社員だが、茶くらい飲んでもいいだろう。そう思って、もう慣れた手つきで急須にお茶っ葉とお湯を入れ、今まで水道水の受け皿として使っていたペンギン柄の超可愛いマグカップに注ぐ。
「え、なにこれ、うっま」
口に入れた瞬間、舌触りが"丸い"と感じた。甘味、酸味、苦味がバランスよく香ってきて、もはやカロリーを感じる。こんな美味いものが0キロカロリーなわけがないだろ。
茶葉の容器には「八女茶」とある。だがこれは昔からのただのお茶っ葉用容器であり、いつも詰め替えているためその実は何茶かわからない。
お茶ってこんな美味いのか。よし決めた、お茶を趣味にしよう。お茶を嗜んでいるなんて、どれだけ奥深い人間に見えるだろう。ウフフ。私は来客のお土産で謎にたくさん貰いまくったお茶を片っ端から飲んだ。しかし、、、
「違う…あの味じゃない…」
記憶喪失の道明寺が牧野以外の女の作ったクッキーを食べてブチギレたのを完璧に理解した。
「恋の味だ…」
再び「八女茶」の容器に入ったあのお茶を飲む。最近は1日4杯の八女茶(?)をがぶ飲みメロンソーダより全然がぶのみしている。トイレ休憩も増えていいかんじだ。窓際社員ムーブのレベルアップを感じる。
このお茶が八女茶なのか、そうでないのか、今はわからない。だから、まだ真相を知るまでは、会社が辞められないのである。詰め替え元がなんなのかを探るには、雑用担当として出世し、詰め替えという高度技術を身につけなければならないのだろう。その日まで、私は、窓際で、生きる。